測量不可能

















チカチカと、黄色に光る私の携帯。携帯はいつもサイレントにしてある。
手に取ってみたら、『Eメール一件』の文字。ぼーっと眺めていると、またチカチカと、黄色く光った。
誰からだろう、と考えながらも、きっと彼からだろう、と思っていた。そしたら、やっぱりそうだった。



































「・・・・もしもし?今どこ?」





辺りを見渡して、彼が現れそうな路地とか、自転車置き場を見ていた。時間はとっくに過ぎてる。





「・・・分かった。じゃ、二番ホームにいるから。」





ふぅ。とため息を付いて、携帯をしまう。することもなかったので、もう一度携帯を取り出した。よし、テトリスをしよう。


テトリスに熱中し始めたとき、彼がまだ来ないことに気が付いた。ゲームを中断させて、彼の姿を探した。私がいるところから少し離れたところに、彼らしき人がいた。その人はうろうろして、きょろきょろしている。





「・・・田村くん!」
「ぅわッびっくりした!」








しばらくして来た電車に乗って、とりあえず座った。
どうして声を掛けなかったのかと訊いたら、分からなかった、と答えた。





「もー、いっつも遅いわッ。」
「ごめん、ぎりぎり間に合わんかった。」





怒っていたのに、笑った彼の顔を見たら、私も笑ってた。将来の夢もなくて、勉強もそんなに出来なくて、部活も私より弱くて、背だけは私よりもずっと高い、彼の優しい笑顔がとても好きで、安心した。





一昨日来たメールは、田村くんからだった。





『今度、花火大会行かん?夏休みに一回は行っときたいねん。』





特に断る理由もなかったし、花火大会は行ってみたかったから、私はすんなりOKした。
二人で遊びに行くのは、今回で何回目だろう? 休日の殆どを田村くんといる気がした。











「花火って、何処であがるん?」
「わからん、俺あんまりこの辺来んから。」
「えッ誘ってきたのに!?」
「まぁ、ぶらぶらしながら歩いたらいいやん。」





私には彼氏がいて、今はもう別れた。
その人は、「レディーファーストやから」とか言って重たいドアでも開けてくれるような人で、気配りが出来て優しくて、面白くて、私はほんとに好きだった。
今はどうか分からない。もちろん、それは私がまだその人のことを好きなのかどうかということ。
「友達」としてうまくやれてると思う。でも、田村くんと一緒にいると、あの人と重ねてしまったり、比べてしまったり。田村くんと一緒にいて、本当に可笑しくて笑うこともあるし、嬉しいことも、切ないこともあるのに、心の何処かではまだあの人を想っているんだ。
それと同じように、あの人にも忘れられない人がいるわけで。





「さすがに人多いなー。」
「ほんまな。熱気がすごいわ。」





本当は、このお祭りにもあの人と来たかったのだけれど。





「もうそろそろ、時間やね。」
「うん。結構空暗くなってきたな。」





あの人は、心の底では誰と来たかったのかな。





「わ、あのホテルに泊まっとる人、めっちゃ見れるんちゃう?」
「ほんまや!めっちゃ良い席やん。」





そんなこと考えたって何も始まらないのに。
それどころか、終わってしまった恋なのに。





「おっ始まった!」
「えッ!?私見れんねんけど!」
「あぁ、結構低いとこで上がってるから。」
「もー、前のオッチャンで全然見れんわ。」





ドン・・・ドン・・・と音だけの花火、上がる歓声を聞いていた。隣には確かに田村くんがいた。ここに田村くんじゃなくてあの人がいたら、きっと手を握ってくれた。そして、もっと好きになるはずだった。
それでも、左を見たら田村くんがいて、空に上がる花火の色に頬を染めていた。そういえば、田村くんは肌が白いけど、あの人は浅黒いんだ。





「あ!結構高めに上がってきたで!見えてる?」
「・・・え、うん、見える見えるっ!」





周りから女の子の「ばりデカーイ!」とか「めっちゃ綺麗!」「かわいー」っていうはしゃぎ気味の声が聞こえてきた。





「・・・やっぱ、花火綺麗やな。」
「うん、綺麗。」





一瞬で、色鮮やかに大きく咲く花火をみて、本当に綺麗だと思った。今は、田村くんと見られて良かった、と心から思ってる。





「・・・見えてる?」





背の低い私を気遣って何度も聞いてくれた。嬉しかった。





欲張りな私は、田村くんもあの人も大切で。
強くないくせに、どちらも守りたいと思っていて。
とても中途半端な私。













中途半端な気持ちで、これからも恋をするんだろうか。













心が言うことをきかない。決めることが出来ない。
…ねぇ、田村くん。
























ごめんな。
この気持ちは隠したままでいさせてくれん?
まだあの人を忘れられない気持ちも、君の側に居たいって気持ちも。











それでも、いつか言いたい言葉があるんだ。





















君の笑顔は、心地良いよ。






























































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