待ってばかりなんか、いなかったよね?















「なぁっ、次の美術って美術室でやるん?」





だって。
そのときはまだ、名字とか「なぁ」とか「おい」って呼び合ってた仲だったし、それだけじゃ嫌で、弘樹は付かず離れずの性格だったから。女友達に聞けば分かるようなどうでも良いことだって勿体なくて、弘樹と話す口実にしてた。弘樹はモテてた。私、焦ってた。





「え、美術室やで。つーか前の黒板に書いとるやん。」
「えっ嘘。分からんかったー。」
「あ。俺、悪いこと言うた。おまえ見えんもんなー。チビやから。」





最後の言葉を強めて、にんまりと笑って言った。
弘樹はよく私の身長を馬鹿にした。そのたびに、あたしはさり気なく弘樹の長身を褒めた。だって、本当に羨ましかったし。





「もー、舘川!うるさいっ。この電柱っ!」
「あー、また言うた。でも、俺が電柱なら石橋はそこら辺の工事現場に立ててある真っ赤なコーンやぞ。ホラ、顔紅くして怒って。」





私の顔が紅いのは怒ってるからじゃないのに。ちょっと鋭い男の子ならとっくに気付いてる、私の気持ちなんか。





「もー・・・知らんわ。チビのあたしのことはどうでもえぇねん。舘川はいいなぁ。背が高くて。」
「そうか?でも、こんなに身長高くてもえぇことあらへんぞ。背の順いっつも後ろやし。」




















そんな、毎日をずっと繰り返すことしか出来なかった。
だけど時は巡って季節は移って。
やってきたのは、年明けで。





「薫、新年の挨拶に参ったよ。」





そういって元旦のはがきを取りに玄関先へ来た私に、友達の愛美が笑顔で言った。
綺麗な和服を着てる。





「やや、愛美さん。何で和服着とん?綺麗やけどね。」
「いつまで経っても告白しない薫さんに新年から良い思いをさせるべく初詣に行こうかと。」
「ほんまに!?え、行く!待ってて!」





私は、初詣とか、そういう行事みたいなのが大好きで、愛美の言っていた「良い思い」の事には気にもしていなかった。
神社に着いてみれば、そこには薫の彼氏と舘川らしき後ろ姿。ぶ厚くてフードにファーがついた黒のコートを、寒そうに着込んでいる。
振り返った、その人は舘川だった。寒さの所為か、朝焼けの所為か分からない。顔がかすかに紅かった。





「明けましたおめでとう。」





新しい年になって、舘川がはじめに発した一言だった。
可笑しくて、笑えた。





「明けましておめでとう。なに、『明けました』って。」
「うーん。何やろな。ほら、初日も昇っとるし。」





とぼけた返事や、「明けましたおめでとう。」という言葉が、急に舘川に近づけてくれた様な気がした。前だって、普通の女の子よりは舘川と仲が良かったし、よく話もした。けど、そんなんじゃなくて。
いつもは制服で、学校の中でしか会えないのに、今日は私服で。どうしてか分からないけど、こうして元旦に会って話してるなんて。年の初めの元旦に。寒さだって、熱くなる頬の温度を感じさせるためにあるようだ。





「あ、おみくじあるで。やる?」





その方を指さして舘川は笑っていった。運良く、薫が彼氏と海へ歩いていく姿を見つけた。





「や、やる!」











「まぁ、気にすんなって。だれでもそういうことはある。」





舘川は必死になだめてくれた。あたしが引いたのは小吉で、良いのか悪いのか分からない。けれど、絶対に悪かったのは恋愛運。その暗示は、『待っていては危ない』だった。





「だって・・待っていては危ないって・・」





半分涙目になりながらつぶやいた。すると、驚いた顔をしたのは舘川だった。





「え、それって恋愛運のところやん!お前、好きな奴おるん?」





鈍い。鈍い。私はどうしたらいいのだろう。
言っちゃおうか。楽になれるかな。上手くいくかな。振られたらどうしよう。





「なぁ、おるん?誰?」





一向に気付く気配のない舘川。好きな人はいるし、相手は舘川なのに。どうして気付かないのだろう。この気持ち。





「なんでそんなに聞いてくるん?」
「何でって。ええやん、別に。」
「もー、いいよ。舘川になんか言わない。」
「あかん。」





さっさと歩いていこうとしたあたしの腕を掴んで、そういった。不覚にも格好良いと思った。
ずるい。
「あかん。」その理由をとても聞きたい。





「・・・嬉しい。」
「あ?・・え?」





気が付けば、あたしの方から言葉を発していたし、いつのまにか泣いていた。舘川は驚いてた。そんな舘川だって、今はいつもよりもっともっと大きく見える。
「あかん。」只、それだけが嬉しくて。
舘川の存在が大きくて、温かくて。





「好きなんは、ずっと舘川だけやもん。」
「・・・・」
「・・・返事は聞いても良いん?」





おそるおそる聞いてみた。恥ずかしさと、言ってしまったという妙な達成感と、不安な気持ちに溢れていた。
そんな私を余所に、舘川はしばらく呆然としていて、はっとしたように、ポケットからさっきのおみくじを取り出した。





「みて、俺のおみくじ!」





見せられた、恋愛運。『良い方向へ向かう。』
その横にガタガタの字で書いてある。
『石橋がすき』
にんまりと笑って、こういった。





「そういう事です。」


















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年明け用に作った物です。
あー、こんな風になりたいなぁ。
彼、格好良いですよね? 何
感想お待ちしております!





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